咲き誇る豪華な花の薫りがする。

その花に
鳥が蜜を吸いに飛ぶ
『トゥーウーン』という心地よい羽音が
頬辺りに感じて、マイケルは
微睡んだ。

モー少し寝てたいなぁ。

なのに風が戦いで、
マイケルのスカートが
大きく膨らむから
慌てて押さえつけると、
そのまま昼寝をしていた木から
落ちてしまう。

「しまった!!」

マイケルの後悔虚しく体は
真っ逆さまだ。

てか!ここに今度は戻ったの?!
なら、、

先を解っていてもつい体を縮めて
落下の衝撃に備えてしまう。
そんな事にはならないのに。

『バサッ!!』

「牟っ!お主、何処から降って
参ったのだ。 、、マ、、」

イケルと続けそうになるのを、

「城にて、、見掛けぬ顔だが
、、、 後宮選儀の者か、」

取って着けた様に続けた御仁は
銀月色の髪を
颯爽と なびかせて、
木の上から降ってきた
マイケルを 両手で受け止めた。

テュルク・ラゥ・カフカス。

カフカス王領国、
ウーリューウ藩島が主
王将軍その人が、
マイケルをお姫様抱っこで
受け止めたのだ。

テュルクの後ろで
近達グランが

「わー!テュルク様!ご無事で
ございますか?!この女人!
何故木の上から落ちるかなー」

無礼に非常識千万だよ!!とか
ワーワーと騒いでいる。

『トゥーウーン』 『トゥーウーン』
『トゥーウーン』

咲き誇る豪華な花の薫り。
鳥が蜜を吸いに飛ぶ
心地よい羽音。

アイスブルーの瞳なんだよね。

改めて今日の早朝に、
地下獄卒宮で
白い刃を首に突き付けられた、
相手を見上げる。

そんな マイケルを丁寧に
テュルクは己が両腕から地面に
ソッと 降ろした。

この時が、
どうやら再び大師に放り込まれた
『走査』の時間軸らしい。

「ありがとう、ございます。
王将軍様に大変失礼な姿を
お見せし申し訳ございません 」

さっき、そっちから聞いた
って言うことで
下者から
話し掛けた不敬は無しよね。

マイケルは、ひくく頭を下げて
カーテシーの礼を取ると、
横へ体を避ける。
それに
テュルクは 静かに頷いて

「後宮選儀を受けるなら広間だ」

一言マイケルに発してグランと
共に城の奥へと消えた。

マントを横斜め掛けにしている
広い背中を頭を下げて
見送りながら、マイケルは
ホッと溜息をついた。

「どう、対応したらいいか、
わかんないわ。寝てたい気分、」

城の此処彼処に配された庭は
どこも白い大輪の花が
真っ盛りで、
華々を、飛び回る極小の鳥が
季節と時間軸を
マイケルに伝えてくる。

「どう考えても、選択肢は
1つしかないってことよね。」

最初の時でいうなら、
さっきの瞬間に、マイケルは
初めて城下やギルドで顔を
付き合わせた
傍若無人な謎の男『ルーク』が、
この藩島の主だったのだと

あの両腕の中で悟ったのだ。

「今なら、、分かるかな。
さっきのが、、
心の覚めた瞬間だったんだ。」

『トゥーウーン』

白い八重咲き誇る花芯に
指を入れると、
マイケルの指先に蜜が移る。

「ほら、おいでー。」

マイケルが指を空に差し出すと
花鳥が指の蜜を追ってきた。

「ふふっ、可愛なぁ。ほら」

この体のダルさは、
さっきまで身体がバラけていた
からなのか、

最初の記憶でならば、
前日徹夜で、
魔道具職人ナジールと作業を
していたからなのか
解らないが。

「うん、ちゃんとあるね。」

マイケルは
スカートのポケットに
『あれ』が在る事を手で
確認する。

海辺にある
ラジのギルドに
通って稼いで1年も立つと、
水龍の喉仏だけでなく、
骨に魔法力を籠める為、
ナジールの工房をラジ長に
紹介された。

そして
ナジールの父親タヌーが
商う商会で魔道具や、魔用品を
作るようになる。

「ごめんね、ナジール。」

これから
わたしは、
最初と違う 未来を、

また、選ぶよ。

「そうしたら、当分、
たぶん、商会に戻れないな。」

『走査』は記憶のスキャンの
はずなのに、走馬灯の如く
マイケルの頭には、
最初の記憶が蘇る。


ようやく、
その日暮らしの
ハント生活からオサラバして、
タヌーとね、
ナジールの店舗兼家に
ヤオと一緒に
下宿してさ、
半年は 魔法具作りを
ナジールの傍らで考察して。
そしたら、
魔充石を
魔用品に仕込む事を
提案したりして、、。

「その頃なんだよね。」

あの水龍の墓場を、また
骨がいるからって、ハントで
ヤオから教えもらって。

ラジにあの場所を
売りつつさ、無期限の使用で
骨も確保できた。

「凄い勢いで、、
あれだ!ゴールドラッシュ
ならぬ 魔充石ラッシュね!!」

見る間にウーリューウ藩島の
産業経済は変わった。

「だから、『後宮選儀』が
起きたんだよね。ふー、、」

マイケルは、
指の蜜を自分の口で舐めとる。

蜜が消えて、花鳥は
また白い大輪の八重花に戻った。

この機会を逃せば、
調整世界から元の世界には
戻れない。

転移門は城の地下にあると
最初に大師はマイケルに
教えた。

「ホームレスよろしくの元
巡礼者が、城に近づく事なんて、
この世界に数年いたらさ、本当
皆無だってわかったんだよね」

初めは、生きるのに必死。
でも、
タヌーとナジールんとこ
来るようになって
ようやく考えれた。

職人、商人なら
城に接点がある?
なら、タヌー商会を
大っきくして、
ナジールをそれこそ
新進気鋭の職人すれば?

ってね。

「それだけだったんだけど。」

まさか、
こんな事になるなんて
思わないじゃない!!
でも、結局『こう』成るために
だったんだろうなぁ。

「神様の計画が
解るはずもないもんね。」

マイケルは、
背中が消えて行った方向を
もう1度見つめる。

最初の時は、
この後 急速に
『ルーク』への想いは
消えた。

まるで蓋を閉めたみたいに。

今、
海の神殿にあった
結界で
ヤオの巨大魔法陣と
膨大な力でマイケルの
思念体は
1度千切れバラけて

『心のオリ』が分裂した。

そのせいかもしれない。

「この後選ぶもう1つを、
今度は 選ぶのが、答えでしょ」

マイケルはそう1人腑に落ちて
目指す場所へ足を向ける。

さっきまで木の上で
昼寝をしていたから、ダルさは
あっても 頭はスッキリだ。

大広間では『後宮選儀』の札
選びがある。

最初は迷わず 『女官』札を取った
今度は 迷わす『後宮』札を取る。

「さ、行きますか!伏魔殿!」

マイケルはスカートを
翻した。もうすぐ時間だ。