魔道具商人のタヌーは、

店の裏に作ったシェルターの
内側からハッチを開ける、
息子で
職人のナジールに
恐る恐る聞く。

「さっきの衝撃は地震か?
ナジール、外はどうなってる?」

シェルターは
地中に大人3人分の背の高さは
掘って作られた地下室だ。

入り口からは梯子で降り、
津波がくれば
土地から浮かぶし、
大砲を撃ち込まれても
地中なら問題ない構造に
している。

ナジールが初めて作って
タヌーの商会が販売し始めた
シェルターは、
地盤沈下する藩島で
瞬く間に売れた。

お陰でタヌーの商会も
ナジールの工房も 名を王領国中に
とどろかせる利益を
シェルターも、
生んでくれたが、
今はそのシェルターの存在に
感謝する2人。

それほど次元津波の衝撃は
シェルター越しでも
酷かった。

「父さん!なんだか解らないけど
外は所々土えぐれてる。何か
ふってきたのかもな!それに
何だかまだ、磁気を帯びてる!」

分解能力で、辺りの残留粒子を
視るとナジールは、ハッチを
全開にして外に出た。

「どら?、、おい!なんだこりゃ
ほんとに、何を撃ち込まれたんだ
こいつあ。当分魔力全開で、店は
修繕だな。しっかし、たいした
もんだな、このシェルターは!」

そう言ってタヌーは
バンバンとハッチを叩く。

「たしかにね、マイケルが言って
た通りだよ。地中に埋めてなけ
りゃ今ごろ蜂の巣だな。
マイケルが知ってる国じゃ、
全部の家が持ってるって話して
たけど。これで、またウチの
仕事は忙しくなるな、父さん?」

そうだろう?とナジールが
父親のタヌーに 商人らしい
顔も見せて、手を貸す。

あんなに鳴り響いていた鐘も
今は止まり、
ワーフ・エリベス像から噴き出し
ていた温水の音もしない。

城下町は磁気を帯びては
いるが、酷く静かだった。

「この城下も所々修繕が、いる
だろうが、まあこれぐらい
なんてこたないぞ。戦闘に
捲き込まれるよかなあ。さて」

通信回線を開いて、情報を
集めるかとタヌーが指を舞わす。
が、
それは
ナジールの驚いた声で遮られた。

「お、と、父、さん、あれっ」

息子が示す方をタヌーが見る。

そこには
空中に浮かぶ、
というより
空を泳ぐ物体は
というよりも、

その『物体』を中身に

泳ぐ生き物。

「なっ、!こいつ、水龍の骨?!
なの、、か?! え、これは」

タヌーは目の前を通り過ぎる
『それ』に体を強張らせた。

まるで
空が水槽になったかの
勢いで
キラリヒラリ群れを成して
自由に泳ぎ廻る

原始的 長い生き物。

長魚のような、
蛇のような形は
シャボン色の瑞々しい
身をして
中身の骨を
無防備に見せつけて
泳ぐ
これが水龍。
なのだろう。

「わからないけど、そうじゃ
ないか?だって、、、あの骨、
間違えるわけないだろう?」

ナジールが 唖然とする。
何故なら
生きている水龍を見た事を
少なくとも
この藩島を含め
カフカス王領国の人間も、
その周辺国でも無いはずなのだ。

だからこそ、
水龍の喉仏の骨から始まった

魔充石の 浅い歴史。

マイケルが
この世界にもたらした
希少な
水龍の骨。そこに
魔法力を
『保管する』という革命が
世界に激震を起こした。

「いや、水龍っちゃ、絶滅して
るんじゃないかって 思ってる
奴も多い。な、こんな風に、
生きてるのは、いや、奇跡だ。」

どんな魔法だよ、、と、
タヌーも 口を開けたままだ。

そう、
魔充石は、
ウーリューウ藩島でしか作れない

水龍の骨が『ここでしか』
取れないのだ。
生きてる水龍の生態は謎で、
沈む海中都市の遺構にだけ、
水龍の骨が見つかる。
藩島でだけハント出来るのだ。
故に
絶滅しているのではと
考えられ、水龍の墓が
この藩島なのだとも
思われている。

だからそこ、
カフカス王領国のさして
大きくもない
このウーリュー島の価値は
近年飛躍的に高くなり、
他国との均衡を保つのが
難しくなってもいた
わけで。

「なあ、父さん。この水龍って
繁殖とか出来ない、かな、、」

ナジールがふと、
タヌーにそんな波紋を投げた。

!!!

次元津波で抉られ 穴から、
仕切りに、出たり入ったり、
自由に空を泳ぐ

何千もの水龍の群れ。

「捕まえて、分解能力で視たら、
オスとかメスとか、両性とか
わかれば、ほら!!な?!」

何時までこの水龍が
居てるかも解らない。なら!

しがない魔道具職人が、
思い付く程度の 発見。

タヌーとナジールは、
次元津波の片付けも
忘れ
城下の目抜通りにまだ残る
魔用品から、
網を手にすると

まだ人々がシェルターから
顔を出すか悩んでいる
うちに

すこし茜がかる空。

泳ぐ シャボン色の生き物を
追いかけ始めた。



「これは、厄介な事態に
成りつつある気がしますね。」

そんな城下をはじめ、
日が陰り始めた藩島の様子を
最展望から
苦い顔をしてスコープを
携え観察した宰相カハラは、
厳しい表情を作る。

「良かった。ドゥワネイも無事
だったみたいですね。しかし」

カハラの元に虚空で
次元津波の衝撃を
認めた
翼龍隊長ドゥワネイからの
通信回線が表示される。

そこには、救出した
異世界人の収容についての指示と

謎の生き物が、虚空を大量に
飛来している報告。

いまだ、海は乾上がった現状。

そして、
上空からも ありありと見て撮れる
次元津波による
地空魔法陣の綻びの示唆
だった。

「すぐに対処しなければ。」

ウーリューウ藩島宰相カハラは
事態が次のフェーズに
入った事を
否応なしに認識して、
手にする スコープを閉じた。

時期に夜がくる。
そうなれば

「侵略が 来ますね。これは」

由々しき問題が起きる予感が
する。