「くーーっ!はっ!」
ー『ガラーーーンガラーーーンガラ
「フーッはっ!」
『ーーーンガラーーーンガラーーー』
「はあああっーーーよっぉー、」
『ンガラーーーンガラーーーン ..』

「あーー、はっと、肩が、よ、
おれぁ、パンパンだぜー。」
『ーーーンガラーーーンガラーーー』

もう朝からどんだけ、鐘の綱を
握っているか、わからない。

誰でもいい、少しでも、おれの事を
気にしてくれてるのか?ずっと、
そりゃあ、鐘突役は、おれと
あとひとりいるが、
交代でも ぶっ続けだ。手袋越しで
自分の両手に豆が出来てるのも
わかるってもんだ。

『ーーーンガラーーーンガラーーー』

しかも、まだ鳴らせって?!
いくら弔い祓いの鐘でも無理
いいますね、宰相様は!!

「うーーーーーー。とこさ」
『ガラーーーンガラーーーンガラ

なんてったって、これ魔道具だろ
どんだけ、ふだん鳴らすのに
魔法使ってると思う?!
それを、今は魔法は使えないって、手動手動!だぞ!!

こんな!!吹きっさらしでーー

「くあっーーーと!」
『ーーーンガラーーーンガラーーー』

ここから見るとな!空も近い!
これさ、次元津波の磁場とかいう
よくわからんのを、
一番に受けるんじゃないか?!
ここ!!
「ああああああーーーって」

『ーーーンガラーーーンガラーーー』

はあーー、汗が!!滝!

おれが、そろそろ交代だろう
かって遠い気分になった頃、

「次は、儂が鐘を打つからの、
おぬしは、下がっておれい。」

横から声をかけられた。見たら、
老中のキプチャクさまだ!

「あー、あのぉ。けっこうな
重さなので、私どもでの役で」

いつもは、後宮で執務されてる
はずの方!
本当はお声かけしてもらう人
でもないのだろうけど、
とか考えたら、
近達が おれの手から、綱を
取って 頷いた。いいのか?

そのまま、キプチャクさまが、
綱を握って、思いっきり

『ガッゴーラーーーンガゴラーーーンガラーーーン』

鐘を突いた!!

ほええええ。キプチャクさまが。

『ゴーーーンガゴラーーーンガラーーーン』

凄いなぁ。力強い音がする。
遠い昔からおれの代まで、
鐘を突く役って家があるのは、

『ガゴーラーーーンガゴーラーーーンガラーーーン』

祈りを込めて祓いと浄化の護りが
この鐘には仕組まれてるからだ。

ふだんは、魔法で鳴らすし、
ほんの一刻が間だ。

『ガゴーラーーーンガゴラーーーンガラーーーン』

忘れてたなあ。
祈りをこめるっての。


おれは、キプチャクさまが鳴らす
姿に見とれてて、
全然交代のヤツが 合図してるのに
気が付かなかった。

大公令嬢で、テュルクさまの
筆頭妃候補はスゥンさまも、
鐘搭に上がってたって。

『ゴーーーンガゴラーーーンガラーーーン』

力強い響きの中で、

「キプチャク様、私どもも、
祓い鐘を鳴らすお手伝いを
させて頂きとう、ございます」

って、聞こえたぞ!いや、ダメ
だろ?

見渡したら、スゥンさまの後ろに
後宮で妃教育されてる他の令嬢も
並んでいる。

「私ども 女子にも、祈らせて鐘
を鳴らす手伝いをさせて下さい」

スゥンさまの言葉を聞いてた
おれは、近達に
やっぱり頷かれて、鐘搭を降りた

どうなってるんだ?
鐘搭には、いつの間にか
令嬢だけじゃない、貴族も城下の
女達も 並んでいた。

『ゴーーーンガゴラーーーンガラーーーン』

キプチャクさまの音だ。

そうか、みんな いろんな思いで
鐘搭に来たんだな。

こんな事、今まで1度だって
聞いた事がないぞ。

おれたち鐘付き役以外が
あの綱を握るのなんて、なあ?

隣でやっぱり、
鼻の頭を掻いてる同僚が、

おれとおんなじ顔してら。

今頃 キプチャクさまと、
スゥンさま、
何を話してるだろうか?

あ、

『カーラアーーンカラーーーンカラアーーン』

音が、変わった。
おれは、

なんでだろうか?

初めて綱役になった時の
想いを 思い出した。