ウーリューウ藩島が城は、
普段では考えられない
大混雑となっている。

「レサおじ、城っていつもこんな
感じなのかぁ?!祭みたいだな」

海域を統べるギルドの長ラジ。
その息子ヤケラが、
副長レサと娘のロミと城に
着いた時は、一段と混乱していた

「いや。さすがに次元津波で
城の侍者達も 慌ててるなぁ。」


『ガラーーーンガラー ーーンガラーーーンガラーー』


城下からの
避難民に、城内を解放して今や
飛行能力がある冒険者も
至るところで、食事を取る為
城内はその豪華な装飾が
霞んで見えるごった返し。

「とにかく、俺達も食べるぞ。」

普段は舞踏会や、
王将軍の宣言に使用される
赤絨毯に豪奢なシャンデリアの
大広間と回廊は、

床にそのまま座る人々で、
埋め尽くされつつあった。

「ハイ!ヤケラ!干し肉と葡萄、
燻製の玉子もね。あ、焼魚とか
あってビックリしたね。これも
ちゃんと食べて。あと、こ 」

座ってすぐに、副長レサの娘
ロミが甲斐甲斐しくヤケラの前に
城下で持ち出した食料を、魔用品
と並べていく。

「オイ!ロミ!お前、俺のは?!
ヤケラだけに渡してんじゃねぇ」

父親のレサがロミの手から、
焼魚をもぎ取って、吠える。

「パパは、自分で持ってきてよ!
ヤケラはね、アタシを抱えて
飛んでくれたのよ!よけいに、
力使ってるの!ヤケラには
其の分食べてもらわなきゃ!!」

ロミは、そんな父親を睨んで
口答えると、

只でさえ、成人前なんだよ、、と
みるみる
泣きそうな顔をする。

「ロミ、レサおじにも ちゃんと
食べるもん渡せって。拗ねんな」

そう言ってヤケラは、
自分と1つしか年の違わない
ロミのオレンジの髪を撫でる。

「だから、おめぇはギルドん
シェルターで留守番しろって
いったろ!あそこだってなぁ
城ん負けねぇ護りなんだよ。
たくっ、着いて来やがって。」

レサは焼魚を2口で食べて、
葡萄に手を出した。

「イヤよ!ヤケラが志願に出るん
だよ!ギルドでなんか待って
られない!パパのばか!!」

ロミが、干し肉はヤケラのだと
言わんばかりに、父親の前から
取り上げる。

「いや、おまえねぇ、父親の俺も
そのヤケラに着いて志願して
来たんだがなぁ。ほんっとに。」

勘弁してくれよ、と嘆くレサに
今度はロミが両手でレサの襟首を
握って、言い聞かせる。

「そうよ!!だから、パパは、
ヤケラの事、絶対守ってよ!」

ガクガクしながら、
そんな無茶苦茶なと唸るレサと
振り回すロミに、

「ロミ。志願は、オレから言った
んだ。レサおじだって、やる事が
あるだろ。オレは、親父の後を
継ぐんだ。親父も、行って
こいって言ってくれたろ?成人
してないけどさ、認めてくれた」

親父はオレがちゃんと出来るって
認めてくれたんだよと、

ヤケラは、未だ襟首にすがり
付かれるレサに
自分の前の葡萄を渡した。

『ガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..』

魔力の源は、例え付加で
補給できても、何処までも
食料だ。
これから、空に翔ぶ志願者は、
ここに来るまでも
飛行能力を使っている。
それを補い、これからの任務に
向けて『食べる事』は、
第1の優先事項だ。

今この大広間にいる避難者も、
これから空に翔ぶ家族がいる者が
多いのだろう、頻りに 男闘呼達へ
食べさせる姿が見える。

その中でも、また成人前の14才。
ヤケラほどの若者は居なかった。

「もしかして、レサおじさん?」

ヤケラ達が食べ座る場所に、
侍従を連れた
濃茶髪を纏めた青年が
魔具の鈷杵と鈷鈴を手に
立っている。

「ハーバナかぁ?!」

レサが、声に振り返ると
青年に手を出して 握手をした。

「久しぶりだぁ。ほれ、お前ら、
初めてだよな。ラジ長の子で
ヤケラ。こっちのちんまいのが、
俺の娘のロミ。14と13だぁ!」

いやぁ、立派になって。
すっかり城内職人じゃないか!と
レサはガハガハと 笑う。

「初めまして、ヤケラとロミ。
ハーバナといいます。城付きで
職人をしてて、レサおじさんに、
ラジ長と、僕の父が、馴染み
なんですよね?レサおじさん。」

城内職人ハーバナはヤケラと
ロミに礼を取ると、レサを見た。

「まあ、あれだなぁ、こいつの
親父と、俺らは 昔組んでたんだ
よなぁ。こいつの親父は、城に
入ってって、お前も後継いだんだ
なぁ。ヤケラも成人するわけだ」

そして、レサはハーバナに
じゃあやってくれよと
合図を送る。

「えっ!もしかして、ヤケラも
志願するんですか?まだ14で?」

ハーバナの声に後ろの侍従も
ヤケラを見て驚いている。

「そうだ。ラジもこいつには、
行ってこいと送り出して、今は
エリベス像に出庭ってらぁ。
魔力は、ラジ譲りのお墨付き。」

そうでしたかと、ハーバナは
濃茶の纏め髪を上下に動かし
頷くと、ヤケラを呼んだ。

「ヤケラ、今から浄化の鈴と、
加護の印を手の甲に着ける。
これは、志願者には必ず行う
大事な魔法だから、手を出して」

見ると、周りでも同じように
他の城内職人が、志願者の
手を取っているのが 、ヤケラに
見えた。

ヤケラが、両手をハーバナに
出すと、ハーバナは鈷鈴を

『リーーーーーーーン』と鳴らして、
鈷杵の片先端を
ヤケラの右手甲に
圧し当て、
鈷杵を回して反対の先端を
今度は左手の甲に
圧し当てた。

ヤケラの両手の甲に文様が
浮かぶと、
隣で見ていたロミの目が
驚きに見開かれる。

「こちら桃色発光が、
遠視の魔充石。
紫発光が飛行の魔充石。です」

ハーバナが、レサにも加護の印を
施している間、ヤケラは、
侍従から2つの魔充石を渡され
腰の道具入れに直した。

そんな、ハーバナが
急に ヤケラを 抱き締める。

「有事の加護は、後で説明が
あるけど、、。どうか、無理を
しないで。僕は、いつもこの
加護を着けるのが、心苦しい。
帰ってくるんだよ。ヤケラ。」

ヤケラが見上げると、
ハーバナは泣きそうな顔をして、
体を離すと 今度はレサに
「どうか、ご無事で。」と、
抱擁した。

「相変わらず、お前はデカく
なっても、泣き虫ハーバナだな」

レサが、もういい青年のハーバナ
の背中をポンポンと叩く。

『ガラーーーンガラーーーン
ガラーーーンガラーーーンガラ』

そこへ、

『全藩島回線を開け!!』

テュルク王将軍の声が響いた。
時が来たのだ。

この声に、一斉回線ウインドウが
志願者や避難民で開かれる。

大広間の至るところで、
光る回線表示面が
空間に浮かび
まるで、聖夜のミサで並ぶ
キャンドルの様に
ロミには見えた。

『藩島の民達よ、我は
ウーリューウ藩島が主、王将
テュルク・ラゥ・カフカス。
次元津波という、
未曾有の災害が襲わんとする
今!我々が成すべき事は、この
我らが藩島の消滅の阻止である!
其を成さんが為、
海神ワーフ・エリベス像に、
魔力を注ぎ、藩島規模の地空結界
を行なわねばならぬ!
しかし!!
其を阻むが、天空から墜ちる
異世界の一部土地である。
島民は、シェルターにて、
異世界島墜落により起きる、
磁場粒子の濁流から避難せよ!
そして、
飛行能力ある志願者は、
地空結界を展開するが為、
異世界人を全員漏れる事なく
救出せよ!!その両手に、
加護の印はされたか!!
その印が志願者を護り、身の行方
を知る術になる。力の限り跳べ!
紫が石は、地に着く前に自動
吸収され、任務を遂行するが石。
異世界人を救出し、結界を行使
出来るかは、
そなた達双肩にかかっている!
明日を迎えるが為に、
必ず成さん!!跳べ!勇者達!』

大広間の先で、玉座の前に立つ
王将軍テュルクの雄々しい姿、

ウインドウ越しにも放たれる
王将軍の獅子吼に、

『グオアオァァァォォォ!!!』

大広間中の男闘呼達が呼応する。

とたんに、大広間の一面に
配されたバルコニーの大窓が

『バタバタバタバタバタバタ』っ
と、開け放たれる!

城は藩島の高台に座し、
バルコニーの向こうは 空だ。

「ヤケラ!行くぞ!!」

いきなりだか、猶予がなさそうだと、
副長レサが ラジの息子ヤケラを
バルコニーに走って呼ぶ。

「おし!!レサおじ!ロミ、
行くな!そこで待ってろ!!」

ヤケラもレサに続いてバルコニーに駆け寄ると、ロミも 続く。

「ヤケラ!ヤケラ!!無理しない
で!!パパ!パパ、気を付けて」

ロミの目の前で、

レサと、ヤケラが白いバルコニー
から 、トンと、
手刷りを軽く蹴って、

空に踊り舞って 翔んで上がった。

ロミの 左右からも、
どんどん 男闘呼達が、虚空へ
その身体を 投げ出して
上がっていく。

沢山の 風吹く 人の群像は
振り返らなきまま
白く光って 帯になって、
蒼い空に
飲み込まれて、

同じぐらいの数残る家族が、
バルコニーに
鈴なって、
それを見仰いだ。

そのバルコニーには、
ハーバナが 涙を流して
両手を高く合わせて
祈って
いる。