異変の知らせに 王将軍テュルクが
気が付いたのは、

優国魔導師ザードが陣頭指揮に
下り、宰相カハラが
展望に持参した、
藩島地図を 翼龍隊長ドゥワネイと
確認して、暫くだった。

『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..』

「ドゥワネイ、それでは現状
引き潮、もしくは乾上がりで
海から露出している海中都市は
すでに、沈没地域の半分まで
広がっているというのか?」

テュルクの長く伸ばされた
銀月髪は、
今は1つに束ねられ
王将軍の闘う姿を思わせながらも
その横顔は、
何時もより
硬い表情を見せる。

「さようで!支龍隊からの報告
ですがっ、その出現速度からも、
全容出現も時間の問題との事っ!
迅速に、結界への最大力
注入が必要でございますっ」

現在唯一の
戦闘力となる翼龍の隊長
ドゥワネイは、
深緑の弁髪を激しく振って

テュルクに地図の箇所に
印をつけながら、説明をした。

そんなドゥワネイに、

「魔導師ザードの元、準備が整い
ましたら、直ぐにでも行われ
ましょう、ドゥワネイ隊長。」

宰相カハラは、世話しなく
指を舞わして
藩島中からの報告を見聞しながら
片下ろしの前髪から、
モノクルを光らせ 宥める。

「なら、津波であっても、海底
隆起であっても、地空結界が
強化出来れば問題ないのだな?」

地図を見つめて放つ
テュルクの言葉にカハラは、
その通りですと、落ち着いて
頷いた。

「はい、テュルク様。地空結界
ならば、どちらにも対応出来、
さらに外敵侵入も拒めます。」

そうして、地図の外側に書かれた
藩島横の外海国を指差して
コツコツと軽く叩いた。

『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン 』

そんな宰相カハラに
龍隊長のドゥワネイがならばと、

「今のところっ、外海国も 災害を
懸念して、国境海峡に姿を出して
ごさいません。しかしっ、余りに
海中が乾上がれば、容易に馬で
進国してまいりましょうぞっ!」

事になる前に、早々の英断をと
噛みつく。

テュルクは、ドゥワネイの言葉に
展望から、再び海を見る。

ウーリューウ藩島を挟んで
外海国と カフカス王領国は
対している特別な地形。

砂洲の地質を持つ
ウーリューウ島は、干潮時には
陸続きとなり
外海国へ、貿易口を
開けて
カフカス王領大陸に
砂洲の藩島中を
通過して交易をする。

ウーリューウ藩島は、
満潮時には島として、
鎖国の『出島』となり、

干潮時には
大陸と外海国の『橋』として
『関所』となる。

大型海獣が住む外海は、
カフカス王領国の砦と同様。
だかこそ、この特殊な
島が王領大陸を守る。

『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラー ーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..』


今その砦が 乾上がりつつ
あるのだから、ドゥワネイが
肝を冷やすのは、仕方ない。

けれどもと、カハラが続ける。

「あと半刻は、弔い鐘を鳴らし
血の穢れを祓わねば、結界は
おろか、我々が魔法を編む事も
叶いません。ご容赦願いたい。」

分かっていれば
刑の執行をしていないと、
宰相であるカハラは
テュルクを
チラリと見て、ドゥワネイに
詰めた。

一瞬テュルクに視線が
集まる。

そもそも
ドゥワネイは 主テュルクが
マイケルに刑を科すとは
思っていなかった。

城下で、初めて出会った時から
主テュルクは、
魔力を持たない女に、
惹かれていたと、ドゥワネイは
解っていたのだから。

「テュルク・ラゥ・カフカス。
友として、聞いていいかっ?」

ドゥワネイがテュルクに
少しだけ碎けた言い方をする。

「マイケルを刑に掛ける気なぞ
本当は微塵もなかったよなっ?」

そうテュルクを問い詰めながらも
間髪いれずにドゥワネイは
カハラにも言葉を下す。

四角四面の男が、
魔力なしで女の部下を持って
みるみる変わったのは
間違いなかったと、思っていた
ドゥワネイは 吐露した。

「あとなっ、学友として言う!
カハラ・レダン・フォード!
お前、マイケルの補佐がないと
つまんないやつだなっ!」

言い放って
お2人とも、失礼しましたと
やや無責任に、控えていた
近達のグランの赤髪を
ぐしゃぐしゃとする顔は

酷く歪んでいた。

「ちっ、下に降りておくなっ」

この鐘の音は、少々堪えると
緑の弁髪を寂しげに、

後はヨロシクと
展望から出て行ってしまった。

『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..』

明らかに失念する
テュルクとカハラの姿を見て、
近達のグランは
侍従に休憩の用意を頼む。


時だったのだ。

弔い鐘が間、
藩島の通信を開けたままにした
城の傍受回線がギルド通信を
拾った。

『藩島全域ギルドに
エマージェンシー!!最大災害
発生!遠視できる者は空を見ろ!
『次元津波』来襲!空から
異世界の一部が降ってくるぞ!
島民を守護シェルターに避難!』

海の街外れでギルド長をする
元英雄ラジの声が、
回線の向こうで
割れ叫ぶ!

傍受専用の回線に、
宰相カハラが
狼狽え、

「な、何を言ってるんだ?!」

と、空を仰ぎ見、

続いて、陣頭指揮に送り出した
魔導師ザードの声を耳にした。

『今一度、最大にして緊急告知!
力ある者は、聞け!!
空から降ってくる、異世界人を
全員漏れなく!受け止めろ!!』

次元津波が空から降ってくる!

大音声となって響き渡る言葉!!

それを、聞いたテュルクが、
弾かれた様に
カハラとグランに
叫んだ!

「弔い鐘を 鳴らし続けよ!!
何があっても止めては、
断じてならん!島に轟かせよ!」


『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガ 『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..』ラーーーンガラーーーン .』