「ごめんなさい……」

肩が震える。ダメだ、泣かない。あたしは絶対に泣かない。

何度も繰り返し謝る。

高橋の気が済むまで、許してもらえるまで何回も謝罪の言葉を繰り返す。

『ごめんなさい』

たった6文字の言葉を呪文のように何度も唱える。

『リリカ!!ちゃんとたっくんに謝りなさい!!』

電話口から聞こえてくる母の悲痛な叫び声に体中の熱が奪われていくような気がした。

母は嫌なのだ。自分が高橋に殴られることが。

だから、あたしに謝れと強要する。母はいつだって高橋……いや、強い人間の味方だ。

『……ごめんなさい……』

もう一度呟く。

どうして自分が謝っているのかももう分からない。

ただ感情なくその言葉を繰り返すのみ。

――誰か助けて。

心の中で叫ぶ。

そんなことをしたって無駄なのに。それなのに、時々思うんだ。

誰かがあたしの手を引っ張ってこの地獄のような日々から連れ出してくれないかなって。

ずっとじゃなくていい。ほんのちょっとでいい。すべてのことをとっぱらって幸せを感じたい。

生きていていいんだよっていわれたい。

この世界でちょっとは役に立つ存在になって、誰かにとって必要な人になりたい。

誰かに必要だと言ってほしい。

誰かの特別になりたい。

今まで誰の特別にもなれなかったくせに、そんなことを考えるなんてきっとおこがましい。

あたしは生まれた時からきっと誰からも必要とされていない子だったに違いない。

そして、これからもあたしは――。

『早く帰ってこい。いいな?』

その言葉を最後に電話は切られた。

家に帰ったらあたしは高橋にどんな罰を受けるんだろうか。