「よかった。萌奈元気そうで」

萌奈の家を出て呟く。

萌奈は隠してたけど、杏奈とすずに何か余計なことを言われたのは間違いないだろう。

これからはあの二人にもっと気を配る必要がある。

萌奈を傷付けたくない。だって、彼女はあたしの恩人だから――。

そのとき、ポケットの中のスマホがブーブーッと音を立てて震えた。

画面には母と表示されている。高橋の誕生日だから早く帰って来いという催促の電話に違いない。

あたしはハァとため息をついてから画面をタップしてスマホを耳に当てた。

「もしもし?」

『おい、お前どこにいる?』

低くドスのきいたその声に思わず息を飲む。

電話口の相手は母ではなく高橋だった。

「バイト先から帰るところですけど」

『今までバイトしてたのか?』

「そうです」

何故か疑い口調で尋ねる高橋に苛立つ。

そこまでして自分の誕生日を祝ってほしいなんて子供のようだ。

『お前、嘘ついたな』

「え?」

『さっき、お前のバイト先のコンビニに酒買いに行ったんだよ。そしたらお前いなかったぞ?』

「……いましたよ。バックヤードに。飲み物の補充してたんですけど」

高橋がコンビニに……?とっさに嘘をつくと、高橋はフンっと鼻で笑った。

『いねぇーだろーが!!お前は帰ったって店のババァが言ってたぞ!?』

唇を噛む。

高橋の言うババァに心当たりがある。同じ時間帯に入るあたしを毛嫌いしているパートのおばさんだろう。

あのおばさんが高橋にあたしが帰ったと話したに違いない。

なんで余計なことを……!!