「今月電気代厳しいんだけど。ねぇ、何とかならない?」

玄関を開けると、母のヒールが無造作に脱ぎ捨てられていた。

溜息をつきたいのを堪えてリビングに向かうと、ソファに横になっていた母が開口一番言った。

数日振りに顔を合わせたと思ったらこれだ。

ローテーブルの上にはチューハイやビールの空き缶が転がっている。

あたしが登校した後に家に帰ってきて昼間からお酒を飲んでいたに違いない。

「ねぇ、聞いてる~?」

呂律の回らない母がまだ何か言っている。

あたしは缶を胸に抱きかかえると、流し台へ運び無言のまま中をゆすいだ。

「来週バイトの給料日だから、コンビニで払っておくよ」

「助かる~。よろしくねー」

ホッとしたように言うと、母は再び目をつむり気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

今朝までは整理されていたはずの部屋が半日でメチャクチャだ。

食べかけのお弁当がダイニングテーブルの上に置かれ、床にはダイレクトメールや書類のようなものと混じって母の脱ぎ捨てられた洋服が散乱している。

誰がどう見てもこの部屋はゴミ屋敷だ。

頭痛がしてきた。こめかみを抑えてその場に座り込む。

ギュッと目をつぶって蘇りそうになる記憶を必死に脳内に押しとどめようとする。

でも、意に反して嫌な記憶が蘇ってくる。

「やめて、やめて、やめて、やめて……違う。違うよ。あたしは違う」

――ネグレストなんかじゃない。

「あたしはお母さんに愛されてる。愛されてるんだから……」