『たまにはトイレにこもりたくなる気分の時もあるよね』

たまにじゃないくせに、たまになんて曖昧に誤魔化した自分が情けない。

高校生になった今だってトイレにこもって泣く癖に。

あたしは人前では絶対に涙は流さない。

幸せが逃げて行っちゃうから。

誰にもみられずに泣くならばきっと、幸せは逃げて行かない。

そんなマイルールを小3の時からただひたすらに守り続けている。

それにしても。今日のあたしは軽率だった。『もえもえ』なんていうあだ名をつけたのがよくなかった。

「リリカってなんで青木さんにちょっかい出すわけ?」

昼休みになり食堂に行きコンビニで買ったおにぎりを食べていると、杏奈が唐突に尋ねた。

「ん?」

「だから、青木さんのこと」

肩より上の黒髪のボブヘア。シースルーバングにしている長い前髪を指で整えながら杏奈は不愉快気に尋ねた。

「あたし、ちょっかいだしてるように見える?」

「見える。あの子のこと、からかってんの?」

「まさか!そんなことしないって~!ただ、気になるんだもん」

「なんで?あの子暗いじゃん。1年の時から思ってたんだよね。移動教室とかいつも一人だし」

「別に移動教室なんて一人でもいいじゃん。誰かと一緒に行かなきゃいけないルールなんてないしさ」

「そう?移動教室一人なのって、一番虚しくない?」

スマホ画面に視線を落としたまますずが続けて言った。

「そういうもの?」

「そういうものだって」

そうか。確かに女って一緒に連れ立ってトイレへ行くものだ。あたしが『トイレ行ってくる』というと必ず二人もついてくる。

二人がトイレに行くとき、『いってらっしゃい』と手を振ると、二人は非難したような目を向ける。

『リリカも行くんだって!』そういって手を引っ張る。

正直めんどくさい。