「でさ」

「うん」

「今、何の話してたんだっけ?」

リリカちゃんはへへっと恥ずかしそうに笑った。

カラーコンタクトをしているんだろうか。

人工的な茶色い瞳の彼女から目が離せない。

「私も、分からなくなっちゃった」

「あはは!だよね~!って、やばいやばい!早く教室戻んなきゃ!!」

リリカちゃんが私の手を掴んで引っ張った、と思ったら「はっ!?」と言って手を離した。

そして、自分の手のひらを見てからちらりと遠慮がちにわたしに視線を向ける。

「手、洗ってなかったよ、ね?」

ね?の部分で首を傾げるリリカちゃん。

「あっ、用は足してないから汚くはないと思うけど……」

「え、おしっこしてないのに、なんのためにトイレに?えっ、えっ」

リリカちゃんは困惑したような表情を浮かべて眉間にしわを寄せている。

天真爛漫な彼女にはきっと思いもよらないんだろう。

トイレで一人涙を流す人間がいるということを。

「それは――」

「へへー、なんてねぇ~!たまにはトイレにこもりたくなる気分の時もあるよね。分かる分かる!」

「……一橋さんにもそういうこと、あるの?」

「あるよ。ありまくり!」

そう言って笑った彼女には何の悩みもなさそうで、私は心の中で「絶対ないな」と一人呟いた。