生きていて、よかった。本当によかった。そう思わせてくれた。

ちっぽけだったあたしの世界がぱあっと広がったんだ――。

あの時、ハッピーバースデーの歌を歌っているとき、あたしは願った。

『今日のこの幸せな時間をずっと覚えていられますように』って。

楽しいことより、辛いことの方が多い人生だったけどそれでもあたしには幸せな時間があった。

それが何より嬉しくてあたしはスマートフォンを胸に抱きかかえた。

震えが激しくなる。自分でももう抑えることができない。

最後の力を振り絞ってバッグに手を伸ばす。

一緒に買った萌奈とお揃いの猫のストラップをギュッと掴むと意識が遠のいていくのを感じた。

右手をスカートのポケットに入れてずっと大切にしていたお守りを握り締めた。

怖くなどなかった。目をつぶると瞼に萌奈の笑顔が浮かんだ。

大好きだよ。短い間だったけど今まで、ありがとう。

直接言えなかったのが心残りだ。

――幸せになってね、萌奈。そして、またいつか会おう。

――そのときはきっと、笑顔で。

萌奈に手を振ると、あたしは振り返ることなく暗闇の中を歩き出した。

ほらね、萌奈。やっぱり月は必要不可欠な存在だよ。

暗闇の中を歩くあたしの足元を月の光が優しく照らし出してくれた。