「その当時の私は世界中の不幸を全部自分が押しつけられたと思って絶望していたの。これから先もずっと不幸は続くって思ってた。もちろん、あの時は子供でまだ無力だったし一人で生きていくことができなかったのもあるけど。幸い祖父母に引き取られてなんとか暮らして行けたけどずっと母からの虐待が心の傷になっていたの」

「その傷は……もう癒えたんですか?」

「残念ながら、きれいさっぱりっていうわけにはいかない。体にもまだ跡はあるし、フラッシュバックが起こったりすることもある」

やっぱりそう簡単には虐待されたトラウマは消えたりしないようだ。

「萌奈を産むまでは私も母親と同じことをしてしまったらどうしようって心配していたの。でもね、親ばかって思われちゃうかもしれないけど生まれてきた萌奈は本当に可愛くて。そのとき、思ったの。私が子供の頃に親にしてもらいたかったことを娘に全部してあげようって」

萌奈のお母さんは子供の頃の話をしてくれた。

両親が離婚した後、小さな平屋の借家暮らしで母親は週に何度かしか家に戻らず帰ってくると暴力を振るったらしい。

口汚い言葉で罵り、虐げ、タバコの火を全身に押しつけ泣き叫ぶ姿を見て笑っていたらしい。

男との関係がうまくいかなくなると、その鬱憤を娘で晴らす。幼稚で短絡的で心の弱い人間だった。

「子供って何をされても親をかばうものなのよね。私がそうだったの。自分が悪い子だからお母さんは家に帰ってきてくれないとすら思ってた」

全く同じだった。あたしも同じことを考えていた。