「リリカちゃん、入るわね」

「あ、はい!」

湯船につかったまま返事を返すと、おばさんはバタバタと慌ただしく動き回り脱衣所を出て行った。

――気持ちがいい。

こんなにもゆっくり湯船につかったのはいつぶりだろう。最近では暑い日が続いていることもありシャワーで済ませていた。

浴槽の中のお湯は入浴剤が入れられているのか白く濁り、心を落ち着かせてくれる甘い匂いがした。

しばらく肩まで浸かったあと、浴槽を出て浴室の大きな鏡の前に立つ。

湯気で曇ってしまった鏡を手のひらでこする。

鏡に映し出されたのは全身あざだらけであばら骨の浮いた青白い顔をしたあたしだった。

痛む肋骨付近はいまだに青紫色のあざが色濃く残っていて息をするだけでジンジンと痛む。

こんなにも痩せてしまっていたのか。

ここ最近計っていなかったから気付かなかったけれど、5キロ程度は落ちてしまったかもしれない。

浴室の椅子に座り、小さく息を吐く。

萌奈に押し切られる形になってしまったけど、突然やってきて風呂に入るなんて常識外れもいいところだ。

きっとニコニコと笑顔だった萌奈のお母さんも今頃萌奈に『もうあんな子つれてこないで!』と怒っているかもしれない。

他人に自分の家の状況や家庭環境を知られるのが嫌だった。

知られて幻滅されたくない。知られて同情されたくない。知られて見下されたくない。

いつだって虚勢を張って自分を偽って惨めな気持ちにならないように必死になって自分を守っていた。