「ていうかさ、あたしにとって萌奈はずっと前から特別な存在だよ。あたし、マジで嬉しかったの消しゴム貸してもらえて。『よかったらこれ使ってください』っていうその一言にあたしは救われた」

「私じゃなくても誰だって困ってる人がいたら手を差し伸べるよ」

「うーん……でもさ、なかなかできないよ。だって見て見ぬふりしたほうが簡単だから。人間、めんどくさいことには目をそむけたくなる」

そっと空を見上げると満天の星が輝いていた。

「萌奈みたいに優しい人がこの世界に溢れたら、きっとみんな幸せだろうね」

視線は上に向けたまま、さっきからずっと震えているポケットの中のスマホを手のひらで押さえる。

電話の相手なんて画面を見なくても分かる。ああ、嫌だ。

萌奈といるときぐらいそっとしておいてほしい。

バイブ音が萌奈に届かないように必死になってスマホを押さえつける。

今だけは目の前のキラキラと光る世界に浸っていられるように。

「綺麗だね。明日は晴れるな!」

「うん」

そろって空を見上げながらあたしは願った。

萌奈が幸せになりますように。そして、その幸せをもらってあたしもちょっぴり幸せな気持ちになれますように。

多くは望まないよ。望んだってきっと叶わない。ちっちゃな幸せでいい。

「リリカちゃんと友達になれて、私……幸せだよ」

隣で萌奈が微笑む。

「あたしも幸せ!」

あたしもつられて微笑み返す。ポケットの中のスマホはいまだに震え続けていた。