誘惑じょうずな先輩。



「…………ばんり、」



ほんとに、聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声量。


でも、万里先輩は耳が良い。



「……うん、もっかい」



わたしの腰をゆるく囲って上目遣いを継続する先輩。


もっかい、じゃないよ。



「……万里、」



「……ん、俺って単純かも、」



「……え?」


「なんもないよ」



そう言うと、先輩はわたしの身体を起こし、目の前に立たせた。


事故な体勢から逃れられて、とりあえずひと安心。



「ゆんちゃんの声って、やっぱ落ち着くね」


変に高くない、だって。



そりゃあ、可愛い女の子みたいにソプラノではない声。


それでさえ先輩に褒められたら、
自分のそれすら好きになってしまいそう。



「あと、ちょっと欲情しちゃうかも、」




からかうように笑った先輩。


……というか、ヨクジョウ、って、なに。




「……ばか、意味不、です、先輩」