誘惑じょうずな先輩。



「……あんまりそう言うこと、早矢くん以外に言わない方がいいですよ」



「……え、」




「早矢くんが、妬きます」




最後にふわっと笑って、ウインクを残して、……日向くんは保健室を出ていった。





……万里先輩に似ているって思うのはこういうときだ。


突拍子もなく現れて、余韻を残さず去っていく。

自分がいたという証のように、ほのかな匂いを残していく。



その掴めなさが、……人を魅了する。




日向くんがいなくなって、シーンと静まりかえる保健室。

こんな空間……、慣れてるはずなのに。

先輩と付き合ってから、わたしはだめになった気がする。




なんだか寂しくなって……、スマホの画面をタップする。





___ プルル、プルルル





無意識。


気づいたら、……先輩に電話をかけていた。




「え、……っ、うそ」


自分でも驚いて画面を凝視する。

なにかの間違いかと期待したけれど、コールしてるのは万里先輩宛で。


……迷惑、だ。




慌てて切ろうと指をスライドしようとした瞬間……、運が良いのか悪いのか、……繋がってしまった。



ほんの少しの沈黙が流れる。


わたしがなにか、言わないとって思ったけれど





『 どーしたの、ゆんちゃん 』