誘惑じょうずな先輩。



……そんな。


この舞台に、そんな理由があったなんて。



先輩は……、いつも大事なことを言わない。

言葉が、足りない。



「あとは、……牽制かな」


「へ?」



「ううん、なんでもない」




クスッと笑ったお友だちさんは、口角をあげて、……最後のアドバイスをくれた。



「万里は見てのとおり適当でなんでもできそうに見えるけど、
恋にはうんと不器用だよ」


「……はい、」



「人前なんて苦手なくせに、『ゆんちゃんを待たせてるから』って一丁前なこと言うしさ」


「……っ」



「万里の友だちとして言わせてもらうけど。
きみは、万里にすっげー愛されてる」



「……っ、はい」




「ほら、ちゃんと、自分の言いたいことぶちまけて来な」



トン、と背中を押された。



先輩のお友だちさん。

名前は知らないままだけど、いまいちばん感謝するべき人だと痛感した。



舞台へ、向かう。