アンニュイな瞳は、わたしを捉えてはいない。
岳、と呼ばれた日向くんに向けられている。
先輩が現れたのは、やっぱり窓から。
久しぶりの身体能力を見せられて、もういろんな気持ちが溢れ出てしまいそう。
「……え、早矢くん、」
予想外だったのは日向くんもらしく、顔に動揺が走っている。
別にやましいことはないはずなのに、わたしと日向くん、ふたりして焦ってる。
万里先輩に、話しかけたい。
けど、いまはだめなんだってそんな圧を感じちゃって行方を見守るほかなかった。
万里先輩はわたしの方を一度も見ずに、口を開く。
その唇は、いつもと変わらず色っぽいんだから仕方ない。
「岳、ゆんちゃんはだめだって言ったはず」
「……だって、香田先輩、可愛いから、」
「可愛いだけじゃないんだけどね、ゆんちゃんは」
「え?」
「岳にはあげられないよ、その子はぜったい」



