「……バンリ先輩じゃん」



万里先輩の登場に、夏川くんはたいして驚いてなかった。

……もはや、わかってた、みたいな。



そんな余裕綽々の夏川くんに、万里先輩は言う。




「ナツカワくんさ、ゆんちゃんはそーゆうの免疫ないから、やめてほしーんだけど」



こんなに……、低い声、出すんだ。

そんな抜けたことしか考えられない。


だって。
チャラけたいつもの雰囲気を感じ取れなくて……、先輩の本気が伝わってくる。




でも、まだ解けない謎。


先輩……、あの女の人はどうしたの?


放課後なんて、保健室に来たことなかったじゃん。



「それってさ、」



バンリ先輩の無表情に恐れることなく、
なんでもなさそうに言う夏川くんは、ぜったいぶれない。



「あんたも言えねえって思うんだけど」




冷たい瞳を、万里先輩に向ける。


万里先輩のことを、先輩を、「あんた」とか言って、だめって思うけど。