一瞬だけ、バンリ先輩が目の裏に浮かぶ。
『ここで俺以外と話さないでね、……とか言っとく』
そう言った万里先輩だって……、いまごろあの女の人と……、なんて。
ううん、……わたしもだ。
なにより、先輩のことは虚しくなるから考えたくない。
きっと、時は一瞬のはずなのに、スローモーションのようになって。
じわっと何者かわからない目に涙が浮かんできて、距離をつめる夏川くんの突き飛ばし方がわからなくなる。
どうしよう……っ。
ぎゅっと目を閉じて、これから起きることの想像をかき消した……そのとき。
「___ 触んないで」
突然、ベッドに倒れこんでいた体を、グイッと腕を引かれて起こされたと思ったら。
「ば、万里先、輩……」
夏川くんをじっと見据えた、万里先輩が目の前にいて。
頭が、真っ白になる。



