誘惑じょうずな先輩。



「ふーん」



夏川くんがよくする、考え込むような仕草。


どこか遠くを見て、なにかをしんみりしている、寂しい感じ。



「純粋だね、お前」



……純粋。


褒められてるのかそうでないのか検討もつかなかったけど、こくりと頷いておいた。



「好きなんて感情、そんなたいそう考えるものじゃないんじゃね」


「……うん、」



「相手が遊び人だから、自分の気持ちにブレーキかけてんだよ」



「……そうなのかな」



そう、夏川くんの言うとおり。


相手が万里先輩だから、それ以上の感情が湧かないように必死で抑えている。


……きっと、そんなの臆病なだけ。




「……どいつもこいつも、世話が焼ける」



そういう夏川くんは、どうなんだろう。


……たぶん、夏川くんは人のことをこんなにも真剣に考えられるひとだから、彼が好きになった人にはうんとすてきなひとなんだと思う。