誘惑じょうずな先輩。



けっこう血が出てるけれど、傷はそこまで深くないみたい。



「消毒、しますね」



保健委員といっても、いつもは怪我人なんて滅多に来ない。


だって、養護教諭の愛先生だって暇すぎてコンビニ通ってるくらいだし。


だから、こういうときくらい、委員の仕事を与えられて嬉しくなっちゃうのは、見ないふりをしてほしい。



刺激しないようにガーゼで手当をする。


その間、まったく痛がらない彼は、痛みに慣れてるんだろうと勝手な憶測を浮かばせた。



「包帯……、いりますか?」



そう問うと、銀髪の彼は小さく首を横に振った。



「……気をつけてくださいね」



触れていた手を離し、彼から離れる。



事務的作業が終わって、夏川くんに保健室にある手当表に彼のことを書いてもらう。



そのとき、チラッと見えた名前。




__ 神田白亜。






強そうな名前、素直にそう思った。