部屋にノックオンが響く。
はい。
と返事をすると、カズヤが扉をゆっくりと開けたのがわかった。
俺は、キーボードをたたく手は止めずに、パソコンを正面に、横目でカズヤを確認する。
「……ホクト」
「何?」
「お前、いいのか?」
「なにが?」
「……あの時の決断、わかってはいたけど、気持ち変わり初めているんじゃないかと思って」
「そんなわけ」
「ならいいんだけど」
「……何?」
「……別に」
カズヤはそういって、俺の部屋を出ていった。
もう二月頭にはいった。
俺らがここを去るのは今学期いっぱいあと一か月ちょっとしか俺らには時間が残されていなかった。
そのため、俺らはこの世界にケジメをつける準備に追われていた。
ケントは自ら店長を努めていた店を、違う誰かに譲渡する手続きで忙しくしていた。
カズヤは。親父たちと連絡を取り合い、元の世界に戻る手続きを着々と進めいていた。
俺は、自分の夢を実現すべく、この世界のこと、元の世界のこと、ありとあらゆる知識を頭に詰め込み、プログラムの勉強を行っていた。
再び聞こえたノック音。
カズヤが、なにか言い残したことでもあるのだろうか。
再び、はいと返事をする。
扉の開く音がする。
「何、カズヤ」
扉を開けた人物が誰か確認せずに俺はそう問いかける。
「直哉」
だが帰ってきた返事は、カズヤではなかった。
俺のキーボードを打つ手が止まった。
そして、パソコンの画面から目線をそらし、しっかりと、扉を開けた人物を見る。
「……來花。何?」
來花がこの部屋に来るのは、その今來花が経っている場所で、來花が倒れたあの日以来だった。
あの日以来、來花はこの家に入るのを避けているのはなんとなくだがわかっていた。
その理由は、きっと、あの日のことを思い出したくないからだろう。
そう思っていた。
無理もない。
長年一緒にいた人が、自分に長い間嘘をついていたことを知ってしまった場所なのだから。
「ちょっと、直哉の本当の姿、知っとこうと思って」
「……それはどういう」
「直哉の夢の準備、少し見せてよ」
そうやって、彼女はにっこりと笑う。
「いいよ、こっちくれば?」
そういって、俺は、自分の座っていた椅子から立ち上がった。
そして、俺は來花をさっきまで自分が座っていた椅子に座らせる。
俺のパソコンのディスプレイには、真っ黒な画面にいろんなコードが打ち込まれていた。
「……これは?」
來花が、そのディスプレイを見るなり、目が点になっているのがわかる。
それを見て、思わず笑ってしまう俺。
「ちょ、今私のことバカだと思ったでしょ!?
「わりわり。カズヤとかケントはこのコード見た瞬間、俺が何やってるかすぐにばれちまうから」
「……何?二人には言えないことこの画面では行われてんの?」
「それは秘密」
「……何それ。どうせ凡人ですよ、私は。非凡な人と比べないで」
「悪いって、謝ったじゃん。そんな怒んなって」
「ま、じゃあ、お前にはこっちじゃなくて、もう少し面白いもん見せてやるよ」
そういって、俺は、空中で手先を動かしパソコンを操作する。
來花には背後にいる俺は見えず、勝手に画面が動き出したことに驚いたようで。
「え、何が起こってんの?」
と、ディスプレイに釘付けである。