「でもさ、よく考えてみてよ」



だが、ここで隣の姉が私をじっと見てきた。なんだか嫌な予感がする。



「のり塩はないよね?」



そういって、あたりを見渡す姉。



その姉の言葉に、さっきまでいい争っていた二人は激しく首を縦に動かす。



「あら、來花。狙われてるわよ」



そういって、隣で笑う母。



「誰が何と言おうとのり塩なの!」



私はそう言って、のり塩の袋を、前に突き出す。



それのどこがおもしろかったのかわからないが、みんな一斉に私を見て笑いだす。



「え、何?」



急に恥ずかしくなって、再び、のり塩の袋を抱えるようにする。



「うははっ、來花。ほら。見てみな。自分の顔」



そういって、姉ちゃんは自分のスマートフォンを内カメラにして私に渡す。


私はそのスマートフォンで自分の顔を見るなり、口元を急いで隠した。



「これだからのり塩は」



そういって、隣でお腹を抱えて笑う姉ちゃん。


それにつられて、直哉も、ケントさんも笑いだす。



私の口元についたのりをみて笑っている。


私は急いでそののりをぬぐった。



「もう、笑わないでよ。ほらっ!」



恥ずかしさと悔しさがこみあげてきて、私はその隣で笑い転げている姉ちゃんの口に、自分の持っていたのり塩を突っ込んだ。



「……急に、なによ」



そう言いながらも、姉ちゃんは、もぐもぐと口を動かし、私の口に入れたのり塩を飲み込んだ。



「私を笑ったお返しっ!ほら!」



そういって、内カメラのまま突き返したお姉ちゃんのスマートフォン。


そこには、さっきまでの私と同じように、唇にのりがついている姉ちゃんの顔が映し出される。



「ちょっ!來花!」



そう言って急いで、口元をぬぐう姉ちゃん。


そんな様子を見て笑う、私たち。



こんな日がずっと続けばいい。



未来とか過去とか。


本当の世界だとか。


そんな難しい話、ややこしい話、皆なかったことになればいいのに。



直哉が前言っていた。



――――――『綺麗なものは刹那だ。だから綺麗なのかな』



「……來花?」



直哉が私のことをじっと見てくる。



我に戻る私。



「何?」


「……別に、何もない」



たぶん、気づいたんだと思う。


私が何を考えていたのか。


だけど彼はそれを口にしない。


口にしたところで、何も変わらないのだから――――――。