そんなつもりではなかった。

 ただ。
 ただ偶然。
 スマホの画面に目が向いてしまった。


 隼理くんのスマホの画面が目に入った瞬間。
 心臓を鷲掴みされたような苦しさに襲われた。


 見ていたくない。
 その画面を。
 見続けていると。
 気分が悪くなる。

 それなのに。
 目を逸らすことができない。


 だから嫌でも画面に表示されている名前が目に入ってくる。


『美輝』―――。


 なに……これ……。

 私は何を見ているの……?


 美輝……?

 誰……?


 画面を見続けていても。
 なにがなんだかわからないという気持ちが増していくばかり。

 同時に。
 胸の苦しさも増していた。


 それらの苦痛と闘っていると。
 着信音は止まった。


 着信は止まった。
 それなのに。
 胸の苦しさは消えることなく続いている。


 ……どうして。
 どうしてだろう。

 名前を見たからといって。
 どうしてこんなにも苦しくならなくてはいけないのだろう。

 この美輝という女性(ひと)が。
 隼理くんとどういう関係なのかわからないのに。

 従姉妹かもしれない。
 隼理くんの実家の近くに住んでいる子供かもしれない。

 そう思っているのに。

 それなのに……。

 なぜなの。
 なぜこんなにも胸が苦しくなってしまうの……。