あの日。
 隼理くんとのことが学校中に広まってしまってから。
 私と隼理くんは休みの日に一度も会っていなかった。


 だけど。
 本当なら。
 私と隼理くんは少し前から会ってよかったのではないだろうか。
 そう思ったりもする。

 夏フェスの日。
 隼理くんは生徒たちの前で伝えた。
 私と隼理くんは恋人同士だということを。

 だから。
 もう何も恐れることはない。
 正々堂々と隼理くんに会ってもいいはず。

 と思ったのだけど。
 やっぱり、そういう問題だけではない。
 私も隼理くんも、そう思っていた。

 だから。
 隼理くんに会うのは。
 隼理くんが教師を辞めてから。

 隼理くんが教師を辞める日は。
 来月の三十一日。
 夏休みの最終日。

 その日が過ぎるまでは。
 会うことは控えよう。
 隼理くんと話し合ってそう決めた。


 ただ。
 今日、隼理くんに会うことになったのは例外。

 今日、隼理くんと会えることが決まったのは昨日。

 昨日の夜、隼理くんから連絡があった。
『明日、会えない?』って。


 もう会っても大丈夫なのかな。
 そう思った。

 だけど。
 隼理くんに会いたい。
 その気持ちの方が強かったから。
『会いたい』と言った。


 私の返答を聞いた、隼理くん。
 少しの沈黙の後。
『芦達先生が、
 どうしても大事な話があるから
 夕鶴と一緒に来てほしいと言われた』
 そう言った。

 隼理くんの話は続き。
『カフェとかで話をすると誰かに見られてしまうかもしれない。
 だから芦達先生の部屋で、ということらしい。
 ……夕鶴は、大丈夫か?』と。


 隼理くんの話を聞き。
 少しだけ考えた。

 隼理くん以外の男の人の部屋に入ること。
 抵抗がないといえば噓になる。

 それに。
 大事な話。
 それは一体どんな話だろう。
 そう考えると。
 少しだけ怖い気もする。


 だけど。
 隼理くんも一緒にいる。
 それは、とても心強いし安心する。

 だから。
『大丈夫だよ』
 と返答した。



 こうして。
 今日、隼理くんと一緒に芦達先生の部屋に行くことになった。