一夜の奇跡は真実の愛を灯す~副社長の甘い誘惑に溺れて~

それは、溶けてガラス状になった釉薬に、細かなヒビが入っていく音…


貫入(かんにゅう)と呼ばれるそのヒビは、ただの割れではなく模様として好まれる。


私も、初めてあの音を聞いた時は、ちょっと感動したな…


まるで、作品に新しい命が吹き込まれて行くようで…


美しい高い音…


私はそのキーワードだけで、ふとバイオリンを弾く麗央さんのことを頭に浮かべてしまった。


あの姿は、今でも鮮明に思い出せる。


『ねえ、水瀬さん』


『え?』


私の頭の中にせっかく浮かんだ麗央さんを消したのは、山科さんだった。


『最近…湊先生と仲良く話してるけど、何かちょっとねえ…』


山科さんは私の隣に座り、何かをするわけでもなく、誰にも聞こえないように話して来た。


『仲良く…って…他の皆さんと同じですけど…工藤先生は、皆さんに同じように接しておられますから』