どうやら高校の時の噂は本当だったらしい。もともと造作は悪くないのだから、化粧をして女らしくなれば、それは納得のできる話だった。見てみたいな、とも思った。ちょっとした好奇心だ。

 それで俺は、今回の同窓会に参加することを決めた。二十歳の頃の好奇心を消化するいい機会だと思って。

 結論から言うと、本田萌は息をのむほど綺麗になっていた。柔らかく揺れるロングヘアーも、特別な派手さはないのになぜか目を引く艶っぽい目元も、柔らかそうなぽってりとした唇も、完璧なバランスでその場に佇んでいた。芳醇な香りが漂ってきそうな色気を持つその姿に、俺は思わず目を奪われて、驚きと懐旧に喜び声をかける同級生たちから一歩離れて、ただ彼女を見つめていた。

 女性の外見なんて、十五年もあれば随分変わる。大体皆垢抜けて綺麗になるから、多少の変化では動じない。けれどこの変貌ぶりは、反則だろう。高田など、俺の隣で「おれ、結婚してなかったら間違いなく口説いてたわ〜」などとボヤいている。後であいつの奥さんにチクってやろうか。

 飲み会がはじまって、萌の隣に座ることに成功したものの、会話はほとんど盛り上がらなかった。俺たちに共通の話題はほとんどないし、昔のこととは言え振った人間と振られた人間だ。元気にしていた?とか、仕事は何をしているの?とか、当たり障りのない世間話をして、あとはお互い、他の参加者が思い出話に花を咲かせている中に入っていってしまった。帰り道が同じ方向だったのは、ラッキーだったとしか言いようがない。

 それで、同窓会から一週間後の今日。俺は萌を待っている。女性との待ち合わせとは、こんなに落ち着かないものだっただろうか。今日はどんな雰囲気で来るのか、二人きりで会おうといったことに対してどう思っているのか、気になって仕方がない。何より、この十五年、彼女がどのように過ごしていたのか、興味がある。今の俺はまるで好奇心が旺盛な子供のようだ。

「お待たせ、ごめんね仕事長引いちゃって」

 少し息を切らして萌が店にやってくると、先週も彼女のそばで感じたランバンの香りがした。萌に馴染む優しい香りだ。

「全然待ってないよ、今日はありがとうね」

 俺がメニューを渡すと、軽く開いて「あ、よかったあるある」と頷いて店員を呼んだ。俺のビールと、前が注文したアンジェロが運ばれてきて、乾杯をする。