「正直カズさんと付き合っても今と何が違うのか想像もつかないんだけど、カズさんは絶対に浮気しないし仕事はしっかりしてるしちょっと頼りないけど時々男らしいし、彼氏としては最良なのでは?と」
「頼りないとはなんだ、ってそうじゃなくて」
「なによ、落ち着いた恋愛おしえてくれるんでしょ」

 じゃあ決まりね、よろしくかんぱーい!と言って彼女はビールジョッキを俺のジョッキに当ててきた。俺はと言えば、理解が追い付かずに呆けているだけで、箸に載せていたつくねが転げ落ちていくのをうっかり見送ってしまった。

 彼女が突拍子もないのはいつものことだけれど、本当に突然どうした、さっき一刀両断にしたばかりだろう。

 けれどその後俺が何か聞く間もなく、彼女に話題を変えられてしまった。

「カズさん、二件目行こう、二件目」
「いいけど、今日は潰れるなよ」
「大丈夫よ~」

 あれからこちらは酒の味もわからなくなったというのに、彼女は暢気に二件目によく行くバーに向かおうという。結局のところ、俺たちは付き合ったのか、どうなのか。本当にいつもと変わらない雰囲気に、先ほどの出来事は俺の妄想が作り出した幻覚、だったのではないかと疑ってしまう。

 それにしても。

「清香、随分機嫌がいいな」
「ふふん、バーについたら飲みたいお酒ができたからね、楽しみなの」
「ヒューガルデンじゃないの、いつもあそこで飲んでるじゃん」
「今日は違うの。ニコラシカが飲みたいの」
「何それ」
「見てのお楽しみ」

 そう言って、彼女はバーにつくなりそのニコラシカとやらを「お砂糖少なめで」と言って注文した。目の前で作られるそれを見て、俺は「おいおい」と思わず彼女に詰め寄る。

「飲むの?これ?だめじゃない?やめとかない?」

 けれど彼女は大丈夫大丈夫、これ一杯だけだからと言ってニコニコしている。

 提供されたニコラシカは、ブランデーの入ったグラスの上にレモンスライス、その上に砂糖が盛られた珍妙な出で立ちで、彼女は砂糖が盛られたレモンスライスを半分に折ると器用に口に運び、次いで一気にブランデーをあおった。

 そして酸味と甘みとアルコールの熱いのど越しにしばらく悶えた後、小さく一言「シンドイ」と漏らす。なぜ飲んだ。