クロワッサンを齧った彼は、私の質問に首を振る。


「特にないな」

「そうですか。私ちょっと買い物行ってきますね。夕方には戻るので……」

「俺も行く」

「えっ」

「俺も行く」

「二回言わなくても聞こえてます」


冷静に返しながらも、内心結構驚いていた。
彼は朝のジョギング以外、基本的に休日は家に引きこもっている。家に、というより、自分の部屋に、という方が適切だけれど。


「先輩は家にいていいですよ。ここら辺の地理ならもう大分覚えましたし」


そういえば夏に着る服があまりないな、と思い至っての外出だった。
本来家の中ならTシャツに短パン、という簡素な格好で事足りるはずだけれど、家の中に彼がいたのではそういうわけにはいかない。

個人的な買い物に付き合わせるのも申し訳ないので、私は彼の申し出を断った。


「いや、俺も行く。荷物持ちが必要だろう」

「そんな大量に買うつもりはないです」

「うるさい。早く食って行くぞ」


何ゆえにそこまで躍起になっているのか。

彼は吐き捨てると、言葉通りパンプキンスープを物凄い勢いで飲み干した。
と思えば、気管に入ってしまったのか、激しくむせ始める。


「は、華っ……お前、これに何、入れた……!」

「自業自得でしょう」


安っぽい演技に取り合うつもりはない。
私は極めて淡泊に応答して、ゆっくりスープを味わった。