母の声が潤む。
目頭が熱くなって、視界がぼやけて、息が詰まった。

私はずっと、無償の愛を受け取っていたのだと。感じずにはいられなかった。


「……お母さんと二人でも、楽しいけど、」


言葉がつっかえる。うまく話せなくてもどかしい。


「四人だったら、倍だもん。もっと楽しいよ」


嘘じゃない。気遣いでもない。本当にそう思う。
お母さんの幸せは、私の幸せだ。そしてきっと先輩も、お父さんが幸せだったら、幸せなんだ。


「華……」


ああ、ほら、お母さんの涙腺が限界だ。どうするの、今から仕事なのに。
でも私もそろそろ、泣きすぎて頭が痛いや。


「華、ありがとう」


心の底から安堵したような声色に、うん、とぐずぐずな返事をする。
それから母は何度も「ありがとう」と繰り返して、私も笑いながら頷いて、通話を終えた。

急に静かになった空間。タイミング良く、ぐうう、と腹の虫が鳴った。


「お前の腹、正直だなあ」


先輩が笑う。飾っていない、無防備な笑い方。
恥ずかしいはずなのに、つられて思い切り吹き出してしまった。

二人でけらけらと笑い転げて、疲れた頃にようやく先輩が立ち上がる。


「何か食うか。何がいい?」


きっとコンビニ飯だろう。私は数か月前に思いを馳せて、彼を見上げた。


「私はミートソーススパゲティで、先輩はカツ丼です」


二人で一番最初に食べたもの。
先輩は悪戯っ子のように目を細めて、任せろと言わんばかりに部屋を出て行った。