布越しに届く、くぐもった声。


「俺は、お前が大切なんだ。だけど――お前の気持ちには、応えられない」


ん? と、思わず首を傾げる。
そこで私は、自分が曲がりなりにも「告白」をしていることを思い出した。


「ちょ……ちょっと、待って下さい。すみません。あれは違うんです」


布団を押し退けて、上半身を起こす。体はさっきよりも軽く、睡眠によって少々回復したようだった。


「あれは咄嗟に言ってしまったといいますか……先輩の動揺を誘えば何か話してくれるかと思って、」

「は?」

「だから、嘘! 嘘なんです! 先輩のこと全然好きじゃないです、ごめんなさい!」


私の声が部屋中に響き渡った。
ここまで切実に「好きじゃない」と訴えるのもどうかと思うけれど、状況が状況である。とにかく、それが原因で拗れてしまっているのなら、早急に解かなければならない。

先輩は数秒目を見開いて固まり、それからがくりと項垂れた。


「嘘か……そうか、良かった……」

「よ、良かったって何ですか。失礼な」


別に先輩のことは本当に好きではないけれど、そういう風に言われるのも癪に障る。
反駁した私に、彼は顔を上げて苦笑した。


「いや……もし、華が俺のことを本当に好きだったら、俺はお前の母さんに顔向けできない」