彼の質問に、私は首を傾げる。


「え、先輩はまだ入らないんですよね?」

「そうだな」

「私は先輩が入った後に入るので」

「どうしてだ」


どうして、と言われても。そんなの今更だ。


「いや……家主より先に入るわけにはいかないです」


というか、彼と暮らし始めてからずっとそうしてきたし、今になって理由を聞かれてもそれ以外に見当たらない。

先輩は目を見開き、それから「確かに今まで一度も……」と一人でぶつぶつ呟く。


「華、早く風呂入ってこい」

「だから私は……」

「一人で集中したい気分なんだ。長めに湯舟浸かってこい」


さっきまで散々集中してたのに? 私、別に物音とか立ててなかったよね?
いきなり神経質になった先輩に、戸惑いを隠せない。


「いやでも、」

「うるせえ! 俺はゲームするんだよ!」

「馬鹿の一つ覚えですか」


今日に至るまで、ゲームなんて微塵もしてなかったくせに。
違和感が胸中を占めたものの、とりあえずは有難く従うことにした。

一体何時までやるつもりなんだろう、あの人。なるべくゆっくりしてからあがった方がいいのかもしれない。
そんなことを考えながら肩までお湯に浸かる。久しぶりにしっかりと体を癒せた気がした。