頓狂な声だった。
先輩の目が見開かれたと同時、彼の箸から麺がつるりと滑り落ちる。


「好きな人から『あげたもの返せ』とか、ちょっと酷すぎるかなって……やっぱり、正妻はタカナシ先輩ですし」

「ちょ、待、華」

「いいんです。私よりタカナシ先輩を尊重するのは、なんらおかしいことではないですよ」


教え諭すように頷き、二人の恋路を見守る決意を表明した。

ショックから取り乱してしまったけれど、よくよく考えたら分かることだ。鈴木先輩がタカナシ先輩に尽くしたいと思うのも、当然の流れだろう。


「だから、俺は女が好きだって言ったろ。お前、こないだからおかしいぞ。グラニュー糖に何を教え込まれた」

「紛らわしいのでその呼び方やめません?」


佐藤の方が文字数少なくて、絶対に覚えやすいと思うのだけど。

鈴木先輩とタカナシ先輩が校内で静かに人気を博しているカップルだというのは、チョコから聞いた。付き合っているわけではなくて、でもそういう想定、だそう。
一部の女子たちに潤いを与え、生活を豊かにするには必要なことらしい。


「みんなの平和のために、頑張って下さい」

「これほどまでにお前の脳内を見てみたいと切に願ったことはないな」


納得し切っていない表情で眉間に皺を寄せる彼を横目に、麺を啜る。すっかり伸びてしまって、柔らかい食感にげんなりした。