画面がゆっくりと暗くなってきたところで、彼が尋ねてきた。
私はスナック菓子を口に放りながら端的に答える。


「ホラーです」

「えっ」

「え?」


隣から上がった声に顔を向ければ、引き攣った彼の頬がぴくぴくと動いていた。
そして彼は私のTシャツの裾を掴み、全力で首を振る。


「華。俺の嫌いなもの知ってるか」

「野菜全般……特ににんじんとブロッコリーですかね」

「ああ、そうだ。それとな、」


ず、ず、と画面の中で黒い物体が蠢く。次の瞬間、悲壮な女の顔が現れ、こちらに襲い掛かり――


「俺はホラーが大っ嫌いだ――――――!」

「静かにして下さい、近所迷惑です」

「無茶言うな! お前卑怯だぞ、ホラーだと分かってれば俺だって観てなかっ、んぎゃ――――――!?」


彼の顔面めがけてクッションを投げつけ、声量の抑制を目論む。
それを両腕で抱き締めるように捕まえた彼は、ちらちらと片目ずつで画面を窺い始めた。

私はといえば、借りてきた映画が軒並みホラーであるくらい、怖い話が好きだ。
しかし洋画、字幕なしとなると、会話の内容が断片的にしか入ってこない。一応母の影響で英語は嗜んでいるが、それだけですぐに理解できるなら苦労しないのだ。


「うわっ、今の見たか華……華?」


あんまり怖くないし、内容もよく分からないしで眠くなってくる。睡魔と格闘する私の耳に、彼の切羽詰まった声が届いたのが最後。重い瞼を閉じて、睡眠欲に身を任せた。


「おい、寝るな! 俺を一人にするな、頼むから! 華、起きろ! 華――――――!」