中学生になった。

 変わらない。

 何も変わっていない。

 私の人生

 バシャンッ

 女子の集団に囲まれ、トイレに連れ込まれてバケツの水を被った。

 やられていることは小学の時と同じ

 同じこと年が上がってもされることに笑みすら零れてくる。

 「お前、気持ち悪いんだよ」

 そう言ってお腹を蹴られた。

 これも同じ

 「自分だけが特別だとでも思ってんの。ウケるぅ」

 「つぅかさ、何?外人気取ってんの?」

 それも良く言われた。

 「つぅか、自分がイケてるって思ってるの?」

 「あはっ。だとしたら趣味悪くね。白髪って、もうおばあちゃんじゃん」

 「おばあちゃん、おばあちゃん」とコールが始まった。

 何が面白いのか、みんな笑っている。

 私だってなれるものならみんなと同じになりたい。

 人間は群れで生きる動物だ。

 なら、その群れから外された動物はどうやって生きればいい?

 死ぬしかないじゃないか。

 それまで一人で誰も頼らずに一匹狼のように凍えた体を必死に自分の腕で抱きしめて温めるしかない。

 なんて惨めな生き方だろう。



 暫くして女子の集団は私を虐めることに飽きたのか、頭の軽い話をしてトイレから出て行った。

 私は冷たいタイルの上にびしょ濡れで倒れていた。

 動くと思わず顔を顰めてしまう程の痛みが走った。

 それでも、いつまでもこんな汚い場所に寝て痛くはないので何とか立ち上がり、私はトイレを出た。

 よくあることなので、もう慣れたもので私は持って来ていたタオルで簡単に体を拭いて体操着に着替えた。

 入学してまだ半年

 けれど体操着も教科書も全てボロボロだ。

 鞄がゴミ箱に捨てられていることなんて毎日のようにある。

 教科書なんて虐められた最初に落書きを去れ、破かれて捨てられた。

 廊下を歩くだけで視線が集まる。

 「神山さん」

 担任の先生に呼び止められて、トイレの次は指導室に連れて行かれた。

 「これ」と言って手渡されたのは白髪染めだった。

 「あなた、まだ中学生でしょう。今からそんな変な色に染めて。

 あなたみたいな若い子にはまだ早いわ」

 「これは地毛です。証明書もあります」

 「我儘言わないの」

 また我儘だ。

 母によく言われる言葉。

 何が我儘なのだろうか。

 「あなたのその髪色は他の生徒にも悪影響よ。

 他の生徒が真似をし出したらどうするの?

 あなたみたいに『地毛です』なんてふざけた言い訳をして」

 「私のは言い訳ではありません。

 私は事実、地毛です。

 どうして私が、髪を意図的に染めて先生方に『地毛です』と嘘をつく生徒に気を遣って地毛を染めないといけないんですか?

 私にはこうして証明書があります。それでも染めろというのならこの証明書は何なんですか?」

 「屁理屈を込めないで。明日までには必ず染めてきなさい」

 「でもっ」

 「あなただけを特別に扱うことはできないの!

 これ以上、先生を困らせないで。

 他の親御さんからもあなたの生活態度に対して苦情が来ているのよ。

 子供だからって何でも我儘が通るとは思わないこと。

 アルビノだかなんだか知らないけど、自分の人と違う容姿を使って男子生徒にも媚びを売っていると評判よ。

 全く、あなたの妹さんは社交的でいい生徒なのに、同じ双子でも随分違うのね。

 一体、どんな育てられ方をしたんだか」

 全くの濡れ衣だ。

 男子生徒に媚びを売った覚えなんてない。

 生活態度だって、授業を真面目に受けているし、成績も自分で言うのは何だが、良い方だ。

 先生に反抗することだってない。

 なのに、どうしてこんなにも責められないといけないのだろう。

 私の何が悪い?

 私は何を間違えている?

 渡された白髪染めに視線を落とす。

 アルビノはそんなにも悪い存在なのだろうか?

 こんなにも迫害を受けないとダメな存在なのだろうか?

 私と彼ら、どこが違う?

 髪や目の色が違うだけじゃないか。

 肌だって白いけど、日本人にだって白い人は居るし、ヨーロッパに行けばたくさんいる。

 ここが日本だから私は理不尽な目に合わないといけない?

 それともどこに行っても迫害される存在なのだろうか?

 突然変異の化け物として。

 同じ人間のはずなのに。

 群れで生きる社会で、特異な姿を持って生まれた私に生きる場所はあるのだろうか?