「も、椛…?」






突然抱きしめられた私は戸惑い
椛の名前を呼ぶと、さらにぎゅっと力強く抱きしめられる。




椛の心臓の音が早くて、なんだか私までドキドキと心臓の音が早くなるのを感じた。



叶ちゃんとは違う、強くきつく力強い抱擁に全身の血管が広がってるのではないかと思うほど体が熱くなる。






「本当お前はバカだ」






耳元で発された言葉は、その言葉とは裏腹に優しくてどこか切ない声だった。






「椛?」






どうしてそんな声で言うの?

いつもみたいに怒ってくれないと私の調子が狂うよ。



そう思って名前を呼ぶと、椛は私の顔に顔をそっと近づけてきた。






「っ…」






いつもと違う雰囲気に息を呑んで
椛の唇が私の唇に触れる直前、


ペシッ



と、椛はデコピンをしてきた。






「いてっ」



「バカ、拒否れよ」



「えっ?あ…」






デコピンをして離れた椛は今まで見た事ないような切ない顔で笑っていて

何とかこの空気を変えたくて私もへへっと笑う。




椛のこんな空気、こんな顔見た事なくて
いまさっきのお互いの唇が触れそうになった瞬間を思い出すと心臓が壊れそうなくらいバクバクと鳴るのが分かる。






「ちょっと外出てくるわ。
谷のところには行くなよ」






そう言うと椛はスタスタと部屋から出ていく。



残された私は谷くんに行けないとメッセージを送りながらも頭の中はさっきの触れる寸前の椛の顔だけだった。