「家が近所でさ、よく帰り道に胡桃と仁菜さんを見かけてた。ローファーとかいろいろ貸したりして、気にかけてた姿見て良い人だなって思った」

穏やかな顔で私のことを褒めてきたもんだから、顔が赤くなる。椿にばれてないかと気になったが、彼の目は長い前髪にすっぽり隠されている。きっと見えてはいないのだろう。私は心の中で安堵のため息をついた。

「そんな胡桃が人を殺すわけない」

自信満々そうな口調で椿は言った。きっと誰に否定されたって、その意志は緩みすらも見せないだろう。そうあってほしい。私はもう、ひとりぼっちになってしまったから、誰にも守ってもらえない。

両親だってメールのやり取りはしてるけれど、当分帰ってこなさそうだし、ちっとも嬉しくないし寂しいけれど、私のためって言うんだから仕方ないだろう。

そんな私に届けられた椿の言葉は優しくて強い。心が軽くなった気がした。

「実際、同じクラスで仁菜さんがいじめられてたの見かけたからでもあるけどな」

気のせいだろうか。あるけどなっていう言葉が不思議に感じた。

クラスの注目の的になっていたぐらいの仁菜がどうして、今はいじめられていたのだろうか。やっぱりわけがわからない。

「どうして……いじめられなければいけなかったんですか?仁菜は」

少し食いぎみに聞いてみると、椿は困ったように髪をかく。それからしばらく黙り混んだ。どうやら聞かれたくなかったらしい。それに腕時計を見れてみれば、もうすぐ始業のベルが鳴る時間だ。