「なんだ。そういうことだったんだ」

私の話を聞いて咲結は爆笑した。

夕暮れ時の保健室。あれから咲結は男子達に蹴られた痛みを和らげるために寝ていた。結構寝れて痛みも疲れもとれたらしく、吹っ切れたような笑みを浮かべている。

「もうあんなことはやらないって。男子達も止めておくってさ」

屋上で別れ間際に椿がそう言っていたのをそのまま伝える。

穏便にとはいかなかったけれど、私の小さな勇気でこのいじめを止めることができた。よくやったなと自画自賛する。

「よかった。ありがとね、胡桃」

花開いたような笑顔でまっすぐに言われて、思わず恥ずかしくなる。人に感謝されたことはあまりなかったから初めての感覚だった。

「私ね、胡桃が助けに来てくれなかったらきっと仁菜のように自殺してたな」

咲結はそう言いながらクスリと笑う。

確かに気が強いくせに本音は臆病である。だから未来でそんなことになっていてもおかしくはない。そうなる前に助けることができて安心感を覚えた。

「大袈裟だね。私、そこまで大きなことしてないよ?」

やれたのはいじめを止めに入って椿と咲結を連れ出して椿に理由を聞いたという小さなことだけ。