私には人を殺す勇気なんかない。まず悪いことだってわかってるし、それで警察に捕まったら人生を無駄にすることになるだろうから。

それに仁菜は大切な友達。たとえ殺す勇気があったとしても、優柔不断な心が邪魔してきてできないだろう。

「胡桃はさ、落ちてゆく仁菜を見かけたのかい?」

私が思っていたのとは的外れしているようなことを問いただしてきたので、ドキリと胸が鳴った。

私は確かに落ちてゆく仁菜を見かけた。自殺を止めようともした。仁菜を助けなきゃと思っていたのにそれはできなかった。情けなくて恥ずかしい。

「見かけました。止めようともしました。けれど……」

「わかってるよ。自殺してしまったんだろ?」

椿はぶっきらぼうな口調で言った。

確かに私が仁菜を殺すわけがない。でも椿はどうして自殺だとわかったのだろうか。わけがわからなくて「へ?」という言葉をまた返してしまう。

「ずっと見てた。君のこと」

呟くように椿は言い出した。

ずっとを強調して言ってくるからストーカーかと一瞬思う。でも印象からしたらちょっとミステリアスだけれど、そんな悪いことはしないだろう。