夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

「かけたくない」

「見えないんじゃないの?」

仁菜は私が元々、度の合わないメガネをかけていたことは知らないのだ。だから驚いている顔を見てもおかしくはない。

「別に困ることはないし。東山君から貰ったものだから」

あんな最悪なやつのことだから東山君と呼ぶのももどかしい。あいつとかって冷たく呼びたい気分だ。

「そういや、メガネ屋だったね」

その後はしばらくの沈黙が訪れた。気分を乗り替えようとしたのに、また椿が出てきたからだろう。お互いに話題も出せずにただ雨の音に耳を澄ます。パラパラという雨音はなにかのリズムを奏でているように聞こえてきて、心地がよかった。

「私、いじめなんて止められるのかな」

ふとそんな独り言を口にしていた。

仁菜のことを一番心配していたのにその先を聞けなかった弱さ。そしてその親友が亡くなれば五日も閉じ籠って泣いちゃうような泣き虫な自分。情けなくてせっかく変わろうと踏み出したのに私をいじめていた人と向き合わなくちゃならないなんて無理だよ。と弱音ばかりを吐いてしまう。

「まさか、私との約束をまた破るんじゃないでしょうね?」

仁菜はそう言って片目で私を睨んでくるものだからついむきに「そんなことするわけないでしょ」と言ってしまった。仕方ないことだけれどやはり守れる自信も勇気も保証も持ち合わせてはいない。