「胡桃、可愛いな。これ使って」

そう言って椿は学ランのポケットからティッシュを取り出して差し出してきた。なんだか申し訳なくなりながらも、会釈をして受け取った。

確かに胡桃というのは可愛らしい名前と世の中では言われている。でも私には全然合ってない名前だ。母が私の幼い頃に、胡桃の実のように固く、でもその中には身をちゃんともち芽を出せる人になってほしいとつけてくれたのだが、実際は弱虫だし、身もちゃんと持ててるのかわからないからだ。

私はティッシュで涙を拭う。椿が背中をさすってくれたおかげで少しは落ち着いてきた。

初対面の人に泣き顔をさらしてしまったのは恥ずかしいけれど仕方ないことだろう。

「どうしてここに……?」

女子の悲鳴を聞いて屋上から落ちたと知ったから来てみたと考えるのが合理的だろう。

「ちょうど登校してきた時に悲鳴が聞こえたんだ。それで俺の父が今、捜査をしてくれてる。即死ということがわかって、父に屋上を確認してこいと言われたから来た」

予想外な理由だ。特に椿の父が捜査をしてくれていることが。即死という事実は受け止めれないけれど、疑問の方が大きい。

どう聞けば良いのか戸惑っていると、椿がそれを察したように口を開いた。

「俺の父、警察なんだ。そんで出勤ついでに学校まで毎日おくってくれるから」

椿は真剣な顔になって言った。

警察の息子ということは間違いなく、仁菜を殺した犯人かとこれから問いつめられるのだろう。