「猫の手も借りたいほど人気者とか?」
「そうきたか」
椿は意外そうな顔をしてそう言った。どうやら私の推測は的外れだったようだ。しかし実際はどうなのかは話したくないらしく、沈黙が続いた。
そうこうするうちに家に着いてしまった。握られていた手はすっと離れ、寂しさを感じる。私は玄関のドアまで行き、椿の方を振り返った。
「今日はありがとう。またね」
「おう、またな」
気づけば私は見えなくなるまで椿の背中に手を振っていた。きっとこの上なくいい時間をくれたからだろう。
それとは裏腹に心の中では罪悪感が生まれていた。仁菜は辛い思いをして自殺してしまったのに、私は幸せな時間を過ごしていていいのかと。
正直良くないと思う。それで仁菜のことを忘れてしまったら失礼だし、一生後悔してしまうから。
ドアの鍵を開けて、玄関に入る。もちろんただいまと言っても、誰もおかえりと声を返してくれる者はいない。何年も前から当たり前のことになっていたはずなのに、虚しく感じた。
昨日と今日の出来事の中で仁菜を失ったことへの寂しさや悲しさ。椿との出会いから感じた強さと優しさと違和感。どれも一言では言い表せない。
なんだか嫌な予感がする。良からぬことが起こりそうなそんな予感。
少し遅めに梅雨入りした今日という六月十日。頭のなかがいろんな感情でごっちゃになりながらも、味がしないご飯を口に運ぶのであった。
「そうきたか」
椿は意外そうな顔をしてそう言った。どうやら私の推測は的外れだったようだ。しかし実際はどうなのかは話したくないらしく、沈黙が続いた。
そうこうするうちに家に着いてしまった。握られていた手はすっと離れ、寂しさを感じる。私は玄関のドアまで行き、椿の方を振り返った。
「今日はありがとう。またね」
「おう、またな」
気づけば私は見えなくなるまで椿の背中に手を振っていた。きっとこの上なくいい時間をくれたからだろう。
それとは裏腹に心の中では罪悪感が生まれていた。仁菜は辛い思いをして自殺してしまったのに、私は幸せな時間を過ごしていていいのかと。
正直良くないと思う。それで仁菜のことを忘れてしまったら失礼だし、一生後悔してしまうから。
ドアの鍵を開けて、玄関に入る。もちろんただいまと言っても、誰もおかえりと声を返してくれる者はいない。何年も前から当たり前のことになっていたはずなのに、虚しく感じた。
昨日と今日の出来事の中で仁菜を失ったことへの寂しさや悲しさ。椿との出会いから感じた強さと優しさと違和感。どれも一言では言い表せない。
なんだか嫌な予感がする。良からぬことが起こりそうなそんな予感。
少し遅めに梅雨入りした今日という六月十日。頭のなかがいろんな感情でごっちゃになりながらも、味がしないご飯を口に運ぶのであった。