夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

「前より少し強くしといたから」

優しそうな口調で椿は言い、メガネを差し出してくれた。強くしたのは度のことだろう。

さっそく耳にかけてみると、ぼやけて見えていた世界がくっきりはっきり見えるようになった。店に並ぶカラフルなたくさんのメガネも白い天井も、そして椿の顔もどれもはっきりと見えてくる。

まるで私の中の世界が少し明るくなったような気がして、目が良かった頃の懐かしさを覚えた。どうやら度は今の視力の悪さにぴったりだったようだ。

「ありがとう。ピッタリだよ。えっと、いくら?」

私はそう言いながら制服のポケットから財布を取り出す。中を開けると五千円分ぐらいはあった。

確かメガネって一万ぐらいするような。今日来るって知ってたら、貯金からおろすことができたのに。

「いいよ。俺からのプレゼント」

予想外の言葉に思わず「へ?」と返してしまう。優しくしてもらった上にメガネまで貰うなんて申し訳ない。それにここは椿のおやじが経営しているらしいし、赤字になったりしないかな。

「そ、そんな……申し訳ない」

「いいから。おやじには上手く言っとく」

この感じだと私がいくら払うと言っても無理そうだ。お金が足りないって思っていたから好都合だけど、果たしてこんなに良いことがあって良いのか。今日はなんて幸運な日なんだろう。

「じゃあお言葉に甘えて」

プレゼントなんて家族と仁菜以外から貰ったのは初めてだ。嬉しさが胸の奥から込み上げてくる。