瞳から零れた雫が頬を伝っていく。ひとりぼっちになってしまったらどうしたらいいのだろうか。心のなかには不安ばかりが募ってくる。

「バイバイ。大好きだったよ。胡桃《くるみ》さようなら」

彼女は花開くような笑顔を浮かべながらそう言って飛び降りようとする。

危ない!

私は慌てて仁菜のところに駆け寄る。すでに屋上から飛び降りていた彼女の手を掴もうとしたが、僅かにそれは届かなかった。

この校舎は五階建てだ。地上から十メートル以上はあるはず。ならば即死になっていてもおかしくはなかった。

「仁菜ー!」

誰かに聞かれているかもしれない。私が仁菜を殺した人だと勘違いされるかもしれない。でもそんなの今はどうでもよかった。かけがえのない存在を失ってしまった悲しみの方が強いから。そんな思いで落ちていく仁菜に叫んだ。

あっという間に仁菜の身体はコンクリートの地面に打ちつけられた。ちょうど登校してきた女子達が驚いて悲鳴をあげている。

私は衝撃的な事態に怯え、震える足を後ずさった。そして屋上の中央に倒れるように座り込む。

これは夢だ。私の友達はまだ死んでいない。そう心に言い聞かせながら両頬を指でつまんで引っ張ってみる。何も起こらない。ただ頬がジンジンと痛むだけ。本当に仁菜はいじめを理由に自殺をはかってしまったのだ。