確かめるように母さんは問う。ああ、そのことかとなんとなく思い出しながら頷いた。

「寂しい思いをさせたね。胡桃のためって何をバカなことを言ってんだか。同僚や先輩の頼みにつきあってただけなのに」

申し訳なさそうに目尻をさげて母さんは言う。きっと食事のつきあいではなく、仕事の手伝いなのだろう。母さんは昔からそういう人だから。

「今回のことでやっと気づくことができた。私達はお人好しが良すぎたんだって。だから……ごめなさい」

母さんは深く頭を下げて言った。

幼い頃家族で電車に乗って、お出かけをしたことがある。そのときは座席がほぼ満席で、目の前にある三席しか開いていなかった。

そこに腰を下ろしていると、次の駅では二人のお年寄り夫婦が乗ってくる。杖をついて、ぐにょりと腰も曲がっていた。

あいにく席に座っている人はスマホや新聞、勉強などと、思い思いのものに釘付けだ。席を譲ろうとしてる人なんて、どこにもいない。

それを知ることもなく、母さん達はお年寄り夫婦に席を譲った。きっとふたりにとっては不幸中の幸いだったろう。心の底から嬉しそうな温かい笑みで、ありがとうとお礼を述べていた。

そのときから両親は、お人好しなんだと知っている。だからか、驚きはしなかった。その上生きていくにはたくさんの金が必要だ。家賃とか食費とか教育費とか、それを稼ぐのは大変だとわかってはいた。

だから今まで何でもひとりでやってきた。けれど本当は、寂しかった。甘えたい自分がどこかにいた。