それでも、母さんは嬉しそうに微笑んでくれた。

「海外にいたらね、急に電話がかかってきてね、大急ぎで駆けつけたの。そしたらあなた、大木から落ちてそれを近くにいた高校生が見つけて救急車を呼んでくれたんだって。なにはともあれ、無事でよかったわ」

困ったような笑みを浮かべて母さんは言う。

大木から落ちるなんて全く子供みたいだ。なんてバカなことをしてたんだろ?今頃死んでたら、母さんはどうなっていたのだろう。そう思うと涙が込み上げてきた。それと同時に照れ臭くなってきて、笑えてくる。

「もう、泣いてるのか、笑ってるのかどっちかにしてよ」

そう言いながらも母さんも泣きながら笑っている。もう顔がくしゃくしゃだ。

「でね、母さん達胡桃に謝らなければいけないことがあるの」

瞳に浮かべた涙の雫を小指で拭いながら、母さんは言った。その口調はどこか、重たい気がする。

「あなたも入り口に隠れてないで、出てきなさい」

母さんがぶっきらぼうに声を張り上げると、そこから出てきたらしい父さんは顔を俯かせて、こっちに寄ってきた。それからパイプ椅子に座っている母さんの隣に立つ。六月下旬なのにもう半袖短パンだとは、男気があっていかにも漁師らしいなんてどうでもよいことを考える。

それよりふたりともどうしたのだろう。そんなに改まちゃって。わけがわからなくて、首を傾げたくなるほどだ。

「母さん達、いつも夜遅くまで共働きしてて、帰ったのは夜中だったっていう時もよくあったでしょ?」