夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~

「もう、恥ずかしいじゃないの。胡桃ったら」

そう言う仁菜の瞳からは、涙の雫が溢れていた。きっと嬉し泣きなのだろう。

「でもまあ、ありがとね」

涙を小指で拭いながらぶっきらぼうな声で、仁菜は言う。その涙と、浮かべた幸せそうな笑顔に、自然ともらい泣きをしそうになった。

その近くで咲結と紡さんは、柔らかく微笑んでいた。


「さてと、改めて逝こっか」

ひとしきり嬉し涙を流した後、仁菜は言う。それからもう一度、手を差し出してきた。

あの日、大木から飛び降りたりしなかったら……。今さらのように、寂しさと後悔の波に押し寄せられる。

でも、もう……終わり。

覚悟を決めるようにひとつ、呼吸をする。

それから仁菜の手に自分の手を重ねた。

幽霊同士だからか、やはり温かさとかは感じられない。氷のような冷たさだった。

仁菜は紡さんと顔を見合わせて、こくりと頷く。まるで、なにかお願いするように。それから口を開いた。

「なんてね。紡さん、あとはよろしく。胡桃、またあの世で会おうね」

いたずらっぽい笑みを浮かべながら、仁菜は言った。

また、あの世で?