果てしない青空の下、私達は椿の家の前で立ち止まった。

「準備はいい?東山君」

怖いのか、震えがある声で問いかけた。実は言ってる自分自身が一番、心の準備ができてなかったりする。

これからインターホンを押し、椿の母に立ち向かうところなのだが、今になって足がすくみそう。

それは椿も同じの様。手が震えていて、冷や汗までかいている。

「ああ、怖いから手を繋いでてくれないか?」

怯えて、掠れた声で椿は言った。それは無理もない。あの夢で見たおぞましく、険しい椿の母の顔と声を未だに鮮明に思い出せる。

でももう、ひとりぼっちじゃない。私達は。手を取り合って、目の前に立ちはだかる壁に向かおうとしてる。

「冷たいかもしれないよ」

幽霊の体だから。

「構わない。ひとりじゃなくて、ふたりなら、胡桃となら乗り越えられる気がする」

弱々しい、でも決意の固まった声で椿は言った。それから手を差し出してくる。私はそれに手を重ねた。その温もりはまるで、ひだまりのよう。すくみそうな足が、軽くなった気がした。

椿は目を隠してた長い前髪を掻き分ける。まるで、気合いいれでもするかのように。

思えばここ数日は、椿の栗色に透き通った目を見ることが、多くなったような気がする。それだけでも、大きな一歩だ。