そんな優しい椿が人をいじめてたことを知って驚いたけれど、その原因を知った今、責める必要なんて、どこにもない。虐待は紛れもない、立派な犯罪だから。

最初は戸惑うことも多かった。だけど椿と日々を重ねるうち、胸が高鳴って、優しさという名の勇気をもらって、椿を助けたい。ずっとそばに寄り添いたい。そんな恋心が芽生えた。

「だから私は今も、ここにいる。心残りなまま、逝きたくなんかないしね」

自然な笑みを浮かべて、それでもまっすぐ言葉を放つ。嘘偽りない本音を。

それを聞いた椿は大きく頷いてから、口を開いた。

「幽霊でも構わない。胡桃だってことは変わらねぇから。俺を助けてほしい。他の誰でもない胡桃に」

椿は私の体を包み返しながら、まっすぐに言った。

その言葉に心臓が、ドクンと跳ねる。その胸の鼓動を抑えるように、呼吸をした。

覚悟を決めなきゃ。最後まで、逃げてたりしてはいけない。

「任せて。じゃさっそく行く?」

包んでいた体を離しながら、私は言った。

椿の母へ、立ち向かいに。

「その前に飯にしないか。腹、減っただろ?」

そう言った椿はキッチンへと行き、コンロの火をつける。そこから出る炎は温かみがあった。

幽霊だから当然、腹は空かない。

もしそれを椿はわかって言っているのだとしたら……。